女性の運動実施において体調管理の注意点として「女性アスリートの三主徴(Female Athlete triad: FAT)」が報告されています。
前回に引き続き、女性への運動/トレーニングやスポーツ指導時の留意点を簡単に確認してみたいと思います。
摂食障害の頻度は、一般女性で5〜9%、アスリートでは18〜20%と高いことがわかっています。
特に10代後半から20代の若いジュニアアスリート、持久系や審美系、体重階級制競技のアスリートで頻度が高いことが報告されています。
摂食障害になるきっかけとして、極端な減量や怪我による体重増加が多く、体重が減らないことから「もっと食事量を減らさなければいけない」、「練習量がまだ足りていない」という誤った解釈につながり、さらに食事制限と練習量を増やしLEA(利用可能エネルギー不足:low energy availability)からFATの悪循環に陥っていく傾向があります。
また、摂食障害のアスリートでは、過食や自己嘔吐、下剤の乱用等を指導者やチームメイト、家族に隠す傾向が多く、競技力向上のために努力しているという意識で食事制限を自ら実施しているため、病的意識を持っていないことで病気を疑うまでに時間がかかることが多いケースとしてあります。
無月経をきっかけに医療機関を受診し診断からわかるケースも多く、チーム関係者を含まない第三者の視点から評価を行うこともアスリートのためにも重要です。
競技力向上のために体重や食事の管理は重要ですが、過剰に体重について言及したり、極端な減量の指示は、摂食障害やFAT を招く場合があります。アスリートと指導者の双方がコミュニケーションをとることは予防を考える上で重要となります。
また、短期間での急激な減量や、ボディメイク系など審美系アスリートや一般トレーニーも食事管理への経験が低い場合同様の障害を発症するリスクが高い点に注意する必要があると考えています。
運動実施者(特にアスリート)に多くみられる貧血は鉄欠乏性貧血です。
鉄の排出や需要が増大し、鉄の供給が追いつかないことが原因としてあります。
ランニングなどによる繰り返し動作が足底へのストレスを与え、赤血球の破壊(溶血)が起こることが知られていますが、微量であり貧血をきたすことはほとんどありません。
また、女性では、通常の経血量で貧血になることはありませんが、過多月経による貧血の際は、(超)低用量ピルを用いて経血量を少なくする治療を行います。
症状は、めまい、立ちくら み、頭痛、息切れ等があり、貧血により全身へ酸素を運搬出来なくなると有酸素運動能力が低下し、持久力低下などにつながります。
これらの症状がある場合は血液検査で貧血のチェックを行うことをおすすめします。鉄欠乏性貧血の治療は、鉄剤の服用、食生活の改善で再発を予防します。
軽度の貧血なら強度を落としてトレーニングを続けてもかまいませんが、日常生活で症状がある場合はトレーニングを中止するようにしましょう。
また、鉄剤の注射が行われることがありますが、即効性を求めて安易に注射を続けることは危険です。鉄剤注射を繰り返すと鉄過剰となり、肝臓障害などを起こすことがあります。
鉄剤は経口投与が基本です。鉄剤注射は医師が必要と判断した場合のみ受けるもので、安易な回復手段として考えないようにしましょう。
運動実施者(特にアスリート)の貧血の原因として主として 2つ考えることができます。
1つは、身体活動量に応じて鉄の必要量が増加するが必要量を摂取できなかった場合、もう 1 つは、エネルギー不足になった場合です。
競技者が鉄の必要量を摂取できなかったために起こる貧血の原因は、激しい身体活動によって、溶血(赤血球が壊れてしまう)が起こったり、発汗量が多くなることによって鉄をはじめとするミネラルの損失が多くなったり、消化管から出血するためです。
また、一般的な貧血の原因である胃腸の調子が悪い場合、 怪我などで出血がある場合があります。
貧血は、赤血球やヘモグロビンの欠乏状態となっても造血によって補うことができれば起こりませんが、損失に比べ造血が下回ると鉄欠乏性貧血を起こすことになります。
造血するためには、十分な鉄の摂取が必要ですが、運動によって消化吸収を効率よく行う時間が少なくなることから、食事として摂取している量が十分であっても吸収されなくては鉄の量が必要量以下になります。
医師の診断により、貧血の状態を把握し、食事の改善や工夫、鉄の摂取量を多くすること、胃腸の状態を良好にすること、運動量や時間を少なくして強度も低くするなど、原因となることを解消・軽減させることが必要となります。
鉄の摂取が食事からだけでは足りない場合には、鉄剤やサプリメントを使って補うこともあります。
競技者は、減量によって貧血になることを知っています。そのため、減量時には貧血予防として鉄のサプリメントを摂取する場合が多いようです。
しかし、鉄のサプリメントを飲んでいてもエネルギー不足から貧血になります。エネルギーが不足した状態では、エネルギーを節約するためにヘモグロビンを低くすると考えられます。この場合、鉄を必要量摂取しても貧血を改善させることはできず、エネルギー不足を解消させることが必要となります。
貧血の予防は、アスリートがエネルギーや栄養素を必要量吸収できるように栄養管理をすることです。
鉄の摂取量を増やしたり、吸収率を上げるための工夫をしたりするだけではなく、エネルギー不足にならないように毎食、バランスよく食べること、運動量を軽減させること、休息や睡眠をしっかりとること、生活リズムを崩さないことなど、日常生活を良好に確立させることが、確実な予防となります。
疲労骨折とは、主に激しいトレーニングを繰り返し行うことにより、骨強度が減少し骨にヒビが入ったり、骨折が生じることです。
実際にアスリートは、シーズン中に診断されることが多く、治療期間中は競技もトレーニングも実施できません。復帰まで長期間を要することから日々のコンディション管理が特に重要となります。
アスリートに限らず、低体力の方や高齢者には注意が必要です。
栄養面からの疲労骨折の改善は、カルシウムとビタミンDの摂取量を適切にすること、日照不足などによる骨の形成の減少や骨密度の低下を起こさないことが考えられます。
また、エネルギー不足からの疲労骨折の改善については、エネルギー不足の解消が必要となります。
疲労骨折の予防は、バランスよく食べエネルギー不足にならないようにしなくてはいけません。
特にジュニアアスリートでは、3 食と補食を十分に食べていても、成長に伴ってエネルギー摂取量の増加が行われていない場合には、エネルギー不足となり、疲労骨折の原因となることもあるので注意が必要です。
女性アスリートの三主徴の予防方法をまとめると良好なコンディション状態でトレーニングやゲームに臨むことが大切です。
そのためにも適切なエネルギー摂取方法は誰にでも的る予防方法に一つであり、良好なコンディショニングの第一歩です。
負のエネルギーバランス(消費エネルギーに比べて摂取エネルギーが不足している状態)の積み重ねは月経異常の原因になります。
他に成長期には骨や筋肉などの組織を作る大事な時期のためエネルギー不足にならないように心がけましょう!
カラダの不調は、月単位で月経異常となり、年単位で骨の異常につながるため、早期に回復を見込めるエネルギー状態の回復を維持していきましょう。
簡単なセルフチェックを週単位で定期的に実施して予防に努めることをおすすめいたします。
・ナツメ社 著者:清野準・塚本咲翔 「パフォーマンスを高めるためのアスリートの栄養学」
・J S P O日本スポーツ協会「女性スポーツ促進に向けたスポーツ指導ハンドブック」
・J S P O日本スポーツ協会「アスリートの栄養・食事」
・専修大学スポーツ研究所 スポーツ庁委託事業女性アスリートの育成・支援プロジェクト「女性スポーツにおけるトランスレーションリサーチの実践プログラム」