睡眠状況を調査した報告書があります。
国民健康・栄養調査2019年によると下記のことがわかりました。
・1日の平均睡眠時間は6〜7時間未満の割合が最も高く、男女比率は男性32.7%、女性36.2%
・6時間未満の割合は、男性37.5%、女性40.6%で性別/年齢階級別にみると、男性の30~50歳代、女性の40~50歳代では40%を超える
・男女ともに20~50歳代では「日中、眠気を感じた」、70歳代女性では、「夜間、睡眠途中に目が覚めて困った」と回答している割合が最も高い
・男女ともに20歳代では「就寝前に携帯電話、メール、 ゲームなどに熱中すること」
・30~40歳代男性では「仕事」、30歳代女性では「育児」と回答の割合が最も高い
睡眠に満足できなかった割合は、40代で26.9%、50代で27.1%となり全年齢層で最も高くなっていることがわかりました。
睡眠不足を感じている場合、仮眠をとることで仕事の効率化や質を向上させることができていると感じ効果があると報告されています。
しかし、本来、仮眠(昼寝)を必要とするのは3~4歳までの幼児が成長の過程で必要とされ、人の睡眠の基本は夜間に長く・深く続けて眠ることであると柳沢正史氏(筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構)は言及しています。
ではなぜ十分な睡眠時間を取ることができたわけではないのに仮眠により眠気がとれたり、頭がスッキリした経験が得られたのか?
それは入眠するとノンレム睡眠のステージ1がはじまり次にステージ2へと移行していきます。
ノンレム睡眠ステージ2では眠気の解消が進み快適な目覚めを感じことができるとわかっています。
例えば、ノンレム睡眠ステージ2に入ると姿勢を保つ筋肉が緩み、首がだらりと垂れるなど姿勢制御の筋緊張がなくなるため、電車で眠りこけもたれかかる様な姿勢になってしまいます。
理想的な仮眠時間は15~20分程度が良いとされており、30分以上長く眠ってしまうとより深い眠りのステージ3に移行してしまうため、起床しなければいけない場合には、もっと眠りたいと不快な状態で目覚めることになり疲労感や倦怠感が増してしまうことも考えられます。
成人の理想的な仮眠/昼寝は「パワーナップ」と呼ばれ、近年では推奨し時間を設ける企業も増えています。
ただし、仮眠を必要とするのは睡眠負債を抱えている可能性が高いとも考えられるため、自身に適したクロノタイプをしり、睡眠時間を十分に確保することが重要です。
睡眠負債のサインの一つとして、入眠潜時(寝ようとして寝るまでにかかる時間)に必要な時間は、必要な睡眠時間が取れている方の場合で15分程度と報告されています。
“いつでもすぐに寝ることができてしまう“という方は睡眠負債を疑う必要があるとも言えます。
バスケットボール選手に睡眠時間を十分に取ってもらうとスポーツパフォーマンスに良い影響を与えるのか?というリサーチがありました。
まず2~4週間は普段通りの生活習慣をとり、次に5~7週間はできるだけ長く睡眠時間をとる生活習慣に変更しました。結果として睡眠時間は平均で110分程度長くなりました。
実験前後に身体能力測定と心身状態を確認するテストが実施されました。
実験結果は、85mスプリントタイムが平均0.7秒速くなり、フリースロー10回中の成功率は79%から88%へ増加しました。
アンケート調査によると選手たちのモチベーションが上昇する一方で、疲労感と落ち込みや怒りの感情(ストレス)の減少が報告されました。練習や試合中にも、目標に対する自身の達成感の上昇が確認されました。
十分な睡眠は、仕事や日常生活の作業効率を上げるだけでなく、運動/スポーツにもプラスの効果が現れることがこのリサーチからわかりました。
現在、アメリカメジャーリーグベースボールで活躍する大谷翔平選手のように、睡眠時間を確保することを大切にするアスリートは多くいることが知られています。
自分の必要な睡眠時間を知り、しっかりと寝ることでパフオーマンスアップは期待できるのと考えられます。
理想の睡眠環境は、入眠しやすく、途中で覚醒しにくいことがポイントです。
入眠/睡眠時と起床時に分けてポイントを考えてみます。
快適な温度と湿度には個人差があります。
快適な室温は普段快適だと感じる時よりも1~2度低い室温を目安にする。
心地よく眠るために自身にあった温度と湿度を保つように心がけるために、特に暑い時期など家族やパートナー間でも大きな差がある場合は、寝室を分けるなどの工夫も必要です。
入眠/睡眠時には最小限に留めておくことがポイントです。
起床前後には朝の光を浴びると体内時計がリセットされ、正常な睡眠リズムを作る大切な要素となります。
寝室のカーテンは、外がまぶしい環境出ない限り、開けておいたり、光を通すものが適していると考えられます。
防犯上を考慮してできる限りの対応で構いません。
具体的には、30ルクス(通常リビングの照明は100ルクス以上)を超える明るい光は睡眠を浅くして熟睡感を下げるため、不安解消や安全の確保に必要な最低限の明るさに留めてみることをお勧めします。
また、睡眠準備として入眠前のスマートフォンやパソコンから強い光をできる限り避けることも大切なポイントです。
40デシベル(人の話し声は50デシベル程度)を超える音は、睡眠に深い睡眠ステージに移行できない感受性が高くなる、中途覚醒をもたらす様な悪い影響を与えます。
また、人の話し声には強い覚醒作用があります。テレビや音楽(リラックスできる、入眠しやすくする)を利用の場合は、オフタイマーに設定をするなど入眠までのサポートとなる程度になるように有効活用することをおすすめします。
快適な睡眠環境には室温 夏25〜28度、冬15〜18度、湿度40〜60%と言われています。
同じ温度であっても湿度が高い汗が蒸発しにくく、体温をうまく下げることができず眠りの妨げとなります。
そこで睡眠の過程のおけるタイミングを大きく3つに分けてポイントを確認しましょう
・室温→快適な室温になるように就寝の約2時間前から寝室の冷房をONにする
・入浴温度→暑熱による身体の熱を逃すため湯船の設定温度を 38〜39度と少しぬるめにしましょう
・寝具→敷き寝具は柔らかすぎず、寝返りしやすいもの掛け寝具は軽く、放湿性の良いもので外に熱や湿気を逃しやすいものにします
・服装→ゆったりサイズで袖口が広く熱を逃しやすいもの
・その他→冷却グッズ(氷枕やアイスパックなど)を利用してスムーズな入眠から深い睡眠が長く持続できるように工夫しましょう。ただし、直接の皮膚への冷却は身体を冷やしずぎるため、タオルなどを利用して体温感覚を調整します
・入眠直後の発汗による熱放出を促進する(汗をしっかりと乾かせる環境を作る)ため就寝準備が大切です
・睡眠中は体温を冷やしすぎず体感温度だけ下げることに気をつけ、冷房または除湿運転のタイマー設定を利用する
・冷房が直接当たる場合や冷房が苦手な場合は窓を開け風の通り道を作る
・扇風機やサーキュレーターを併用して気流をよくする
・冷房OFFタイマー設定→最低体温まで緩やかに体温を下げる。設定時間は、睡眠時間の半分程度が目安です
・暑すぎて睡眠が途切れないよう冷房ONタイマー設定する
・冷房ONタイマー設定→起用時刻に向けて睡眠環境を整える
・冷房温度設定だけでなく、窓を開け風通しの良したり、扇風機やサーキュレーターを併用して室内の気流を作る
人の睡眠の基本は夜間に長く・深く続けて眠ることです。
仮眠を必要とするのは、睡眠負債を抱えている可能性が高いとも考えられるため、自身に適したクロノタイプをしり、睡眠時間を十分に確保することと睡眠リズムを整えることが重要です。
睡眠時間を伸ばす習慣を継続して、より快適な睡眠をとるために睡眠のための準備と睡眠環境を整え、睡眠負債による睡眠障害のリスクを下げ、日常生活における作業効率やスポーツパフォーマンスアップに繋がる様に行動を意識して行きましょう!
“いつでもすぐに寝ることができてしまう“という方は睡眠負債を疑うことも大事です。
・厚生労働省 2019年 国民健康・栄養調査結果の概要
・Newton別冊 「40代からの人体の取扱説明書」
・Newton別冊 「睡眠の教科書」
・国立スポーツ科学センター「競技者のための暑熱対策ガイドブック」
・ダイキン「熱帯夜の困りごと解決法」
・Mah CD;Mah KE;Kezirian EJ;Dement WC. The effects of sleep extension on the athletic performance of collegiate basketball players.SLEEP 2011