前回は運動によって熱中症が起こる要因、ヒトの体温調整についてご紹介しました。
運動による熱中症事故は無知と無理によって健康な人に生じます。
適切な予防措置を講ずれば防げるものです。
事故の中には、最悪なケースである死亡事故も含まれています。死亡事故に至らなくても熱中症になるとしばらくの間、運動やスポーツ活動を控えなければいけないため、トレーニングの面からも、精神的な面からもマイナスな影響を受けます。
熱中症についてをよく理解された上で今回は暑熱順化についてみていきます。
暑熱環境に対する抵抗力(暑熱耐性)は、暑熱環境下で持久性の運動を繰り返すことによって徐々に高めることができます。このように暑さに身体が適応することを“暑熱順化”といいます。したがって暑熱環境下で運動パフォーマンス発揮を行うみなさんにとって、暑熱順化は必要不可欠です。
暑熱順化を行うためには、熱放散反応(発汗)を刺激する必要があります。具体的には60〜100分前後の軽く息が弾むくらいの中強度運動(50〜60%VO2max)を行い、深部体温を1℃以上上昇させることが必要です。順化期間には7〜14日程度必要です。
暑熱順化で得られる効果は下記の通りです。
・暑熱順化を行うことで体温調節が効率的に働くようになります。
・血漿量の増加、発汗量の増加、同一運動強度での心拍数の低下などがあり、持久性運動パフォーマンスが高まります。つまり、正確な判断能力を保った状態での長い時間の現場作業ができる可能性が高まります。
・暑熱順化で得られた効果は、短期間(1週間以内)で失われるものではなく、3日以上連続で暑熱環境下での運動を中断しなければ消失しないと報告されています。
・暑熱順化で得られた効果は、暑熱環境のみならず、通常環境でもその効果が発揮されるため日常生活においても熱疲労のストレスを抑え、カラダの回復を早める効果が期待できます。
・暑熱順化中は、身体にかかる負荷が大きくなるので、水分補給などを怠らないように注意する必要があります。
簡単にまとめると、暑熱順化は汗をたくさんかける(暑さに対応できる)身体に変化させ、身体は熱中症になりにくい状態となります。
身体には性別差による特徴もあり、男女ともに暑熱耐性はほぼ同じですが、発汗量は女性の方が少なく月経に伴う基礎体温の変化が影響されることもあります。
また、暑熱環境下では体調(消化器)へのストレスが大きくなりやすく、胃腸症状の発生が高くなります。
しかし、持久性の運動は腸のトレーニングにもつながり、高温環境下での体調回復促進に寄与する可能性が高まる効果が期待できることが報告されています。
夏バテ対策にも必要不可欠ということもわかります。
・日本スポーツ協会「スポーツ活動中の熱中症予防ガイドブック」
・環境省「熱中症予防情報サイト」
・国立スポーツ科学センター「競技者のための暑熱対策ガイドブック」