女性の運動実施において体調管理の注意点として「女性アスリートの三主徴」が報告されています。
運動実施中の女性自身が自身の月経について理解していない(特に若い世代のアスリート)ことや指導者が月経についての認識不足であることが半数以上いることが報告されています。
今回は改めて女性への運動/トレーニングやスポーツ指導時の留意点としてまず月経についての基礎知識を簡単に確認してみたいと思います。
月経周期に伴う精神的・身体的症状の変化や正常・異常月経の定義を理解することが大切です。
アスリート一般の方に限らず、コンディションを考える上で、異常の早期発見に繋がります。
月経異常に当てはまる場合は専門医(婦人科)の受診をお勧めします。
月経(生理)
女性の身体は約1ヶ月に1回、排卵します。それに合わせ子宮内膜を厚くし、受精卵の受け入れ態勢を整えます。
その後受精しなかった場合は不要になった内膜が剥がれ体外に排出されます。
月経周期
月経開始日から次の月経の開始日前日までの期間のことです。
正常:周期25〜38日(±6日) 月経3〜7日とされています。
月経周期に影響する女性ホルモン
a.卵胞ホルモン(エストロゲン)
ホルモンの作用として、卵巣排卵制御、乳腺細胞の増殖促進、脂質代謝、インスリン作用、セロトニンの活性化などがあります。
b.黄体ホルモン(プロゲステロン)
ホルモンの作用として、子宮内膜や子宮筋の働きを調整、乳腺の発達、妊娠の維持、体温上昇の作用などがあります。
月経周期のどの時期がコンディションが良いのか?
月経周期のどの時期にコンディションが良いかを把握するために、基礎体温、体重、主観的コンディションの変化などを毎日記録することが推奨されています。重要なポイントは、毎回月経周期の同じ時期に同様の症状がみられることです。
月経不順や経血量が少なく2~3日で月経が終わる場合は、排卵がうまく行われていない「無排卵」の可能性があります。
無排卵の状態ではプロゲステロン分泌されていないため、月経周期によるコンディションの変化を自覚しないことがほとんどと言われています。
月経周期内の体組成変化
月経前、月経中は太りやすく、食欲が増加するとの認識がありますが、体組成計データを調査すると体重、体脂肪率、筋肉量、総体水分量において月経周期内で差はないことが報告されています。
変化が見られたものとして浮腫み率(細胞外液÷体水分)が月経後の卵胞期と比べて約3%アップしていることがわかりました。このことから主観的な感覚として月経中には体重が増えるとの認識になったと考えられます。
黄体期(月経周期内)に、卵胞ホルモン(エストロゲン)が黄体ホルモン(プロゲステロン)より下位になるためインスリンの感受性が弱まり過食傾向になっているのではないかと推測されます。
月経周期が及ぼす体調の変化(月経随伴症状)
月経随伴症状は、月経前や月経中に下腹部痛などの身体症状や、イライラなどの精神症状、人につらくあたってしまうなどの社会症状などで、月経が始まる事で症状は消失していきます。女性の50~80%が経験されています。
症状が起こる時期によって、「月経前症候群」、「月経困難症(月経痛)」と言われます。(ソニー健康保険組合より引用)
a.月経困難症
「月経に随伴して起こる病的症状で日常生活に支障をきたすもの」と定義され、症状は下腹部痛、腰痛、頭痛、吐気、腹部膨満感、下痢、全身倦怠感などがあります。
コンディションやパフォーマンスに影響を与える代表的な婦人科疾患です。月経痛が強く頻繁に練習を休む、鎮痛剤の使用量が増えている競技者には、月経困難症の原因を調べるため一度婦人科で診察を受けることをお勧めします。
b.月経前症候群(Premenstrual Syndrome : PMS)
月経 3 〜 10 日前からイライラや気分の落ち込み等の精神症状や、体重増加、浮腫、食欲亢進、眠気等の身体的症状が出現し、月経が開始するとこれらの症状が改善するものを言います。月経前にコンディションの低下がみられる場合は、PMSを疑い 2 〜 3 か月の基礎体温や気になる症状を記録し、月経周期と症状に関連があるかを調べることをお勧めします。
c.月経前不快気分障害(Premenstrual dysphoric Disorder : PMDD)
月経(生理)が始まる約2週間前から心身が不安定でとてもつらい状態を「月経前症候群(PMS)」といいます。その中でも心の不安定さが際立って強く出てしまう場合は「月経前不快気分障害(PMDD)」と診断されます。
PMDDは抑うつ気分、不安・緊張、情緒不安定、怒り・イライラの4症状が中心で、食行動の変化や睡眠障害などの特徴的な症状が月経前に出現することで社会活動や人間関係に支障をきたします。原因や病態についてはまだ完全には明らかにはなっていません。(恩賜財団済生会webサイトより引用)
月経随伴症状への対策は、女性の運動・トレーニングとコンディショニングを考える上で重要となります。
これらの症状がない方においても、アスリートなどの競技試合や練習日程に合わせ月経が重ならないように月経周期調節を行うことがあります。
月経対策を考える際、ホルモン剤の影響から吐気や頭痛、不正出血、一時的な体重増加、血栓症等の副作用がみられることもあるため、専門医から正しい情報を得た上で服用する判断と服用開始時期等を相談することをお勧めいたします。
年代別の体調変化
①10代
・ホルモンバランスや月経周期が安定していないため、月経つうに悩む学生が多い
・スポーツ等でパフォーマンスを発揮できない可能性がある
・婦人受診の提案など相談しやすい環境を整える必要性がある
②20〜30代
・20代で月経周期が安定する
・30代でホルモン分泌量のピークを迎える
・PMS、PMDDが増加する
・婦人科系の疾患等の可能性を考慮し、体調管理把握する必要性がある
③40代
・月経周期の変動、出血量や日数が不安定になる
・女性ホルモンの減少により更年期症状が出ることもある
④50代以降
・平均閉経年齢 50.5歳
・更年期症状が現れる(ホットフラッシュ、動悸、息切れ、疲労感、頭痛、めまい、イライラ、憂鬱感、不眠など)
・骨折、糖尿病への注意(女性ホルモンが骨形成、インスリン作用に影響を与えるため)
以上
次回、女性への運動指導の留意点(後編)へ続く
・ナツメ社 著者:清野準・塚本咲翔 「パフォーマンスを高めるためのアスリートの栄養学」
・J S P O日本スポーツ協会「女性スポーツ促進に向けたスポーツ指導ハンドブック」
・J S P O日本スポーツ協会「アスリートの栄養・食事」
・専修大学スポーツ研究所 スポーツ庁委託事業女性アスリートの育成・支援プロジェクト「女性スポーツにおけるトランスレーションリサーチの実践プログラム」