以前のコラムで「走りすぎ」に関する誤解についてご紹介しました。
健康を害するリスクという観点から見れば、「走りすぎ」を心配するよりも、「体力がない(運動不足)」ことの方が健康にとってより大きなリスクとなります。
運動によるリスクの軽減効果は、わずかな距離を走る習慣でも効果があり、週にわずか数キロ走るだけでも、心血管系疾患による死亡リスクは非ランナー(全く走らない)の約半分になることが示されています。
健康維持や健康寿命を伸ばすことを最大の目的とするならば週に16〜24km程度が「最適」と5万人以上を対象とした15年間にわたる大規模追跡調査から示されました。
それを超えて走ったとしても、走らない場合よりははるかに健康的であるともわかりました。

今回は、「走ること」に関する誤解について考えていきたいと思います。
年齢を考えて、走ることはもう無理なのか?今から始めても遅いのか?
そんな悩みを持ち行動する前にネガディブな考えや疑問を持ってしまうことは多いのではないでしょうか?
例えば、みなさんから「膝や足に負担がかかるから走ることを控えている」、「走ると関節を痛める」という言葉をヒアリング時によくお聞きします。
外傷や関節に何らかの障害を持たれていない限りは、「走ると関節を痛める」という考えは誤解だと当方は考えています。
適正な負荷で行うランニングは、むしろ身体の支持構造を強力に鍛え上げます。
体力強度に合わせた適正な負荷の定期的なウォーキングやジョギング等の運動習慣は慢性的な腰痛を軽減させたり、肩こり等の深い症状や関節痛も軽減させる効果がよく現れています。
そのような声を聞いたことがある方もいらっしゃるのではないでしょうか。
健康寿命を伸ばすためにも体力づくりは必要不可欠です。
生涯走れるためのポイントを誤解の視点から考え直していただけるとように簡単にまとめ紹介していきたいきます。

ランニングによる骨や関節・靭帯と毛細血管に与える運動効果は以下の通りです
着地時に骨や関節へ加わる絶え間ない衝撃が適度な刺激となり、骨密度の低下(カルシウム喪失)を防ぎ、軟骨や骨を強固にします。
筋肉と骨をつなぐ「腱」や、骨同士をつなぐ「靭帯」は、定期的な負荷を受けることで「強く、かつ柔軟」に適応していきます。

持久系トレーニングにより筋肉内の毛細血管密度が向上し、血液から筋肉細胞へ酸素を取り出すスピードが飛躍的に高まります。
肺胞(空気嚢)の発達と毛細血管網の拡大が相乗効果を生み、体全体の酸素利用効率を高めます。

ランニングを通じて靭帯(および腱)を安全かつ効果的に強くするための注意点やポイントをまとめてみます。
ランニングによる関節や筋肉への絶え間ない「衝撃」が、靭帯や腱、軟骨、骨を強化する刺激になりますが、これらを強化する際の主な注意点は以下の通りです。
靭帯や腱を強くし、かつ柔軟にするためには、「定期的なトレーニング」が不可欠です。
不定期な運動ではなく、継続的に刺激を与えることで、組織が体重の衝撃や強い圧力に耐えられるように適応していきます。

怪我について「定期的なランニングの結果であり、避けられない災いだ」とも言われます。
リスクを減らすためのポイントは、強度の調整と可動域を高めることです。
靭帯の強度や可動域を高めることで怪我の危険性は減少しますが、過度な負荷は逆効果になる可能性があります。
「走りすぎ」への配慮として死亡リスクのデータによれば、週に20〜25マイル(約32〜40km)を超えて走ると、最もリスクが低い層に比べて死亡率がわずかに上昇する傾向が見られます。
これは心血管系のデータですが、身体への過剰な負担を避ける一つの目安にもなります。
加齢に伴い、骨密度の低下(カルシウムの喪失)や筋力の減少が起こります。つまり現在の身体の状態に合わせた運動プログラムであることが必要不可欠です。
人は成長過程が終了する20代半ば以降は生理的能力が徐々に低下するため、「年齢に応じた運動プログラム」を採用することが、靭帯や関節を痛めずに強化し続けるために重要です。
中でも老化への対抗として、適切にトレーニングを積んだシニアランナーは、運動不足の若者よりも高い身体能力を維持できるため、年齢を理由に諦めるのではなく、自分に合った負荷を見極めることが推奨されます。
また、筋力や身体の機能的動作等を理解して、身体の状態に合わせた適応力を高めるトレーニングを実施することが大切です。
加齢に伴う筋肉量の減少(25歳前後をピークに、65歳までに25%以上減少することもある)を防ぎ、維持・向上させるためには、特に「スピードトレーニング」が効果的です。

スピードトレーニングとは、筋肉内の筋繊維の直径を大きくし、筋力を高める効果があります。
これにより、筋肉のサイズが増大し、加齢による筋繊維の質の低下や減少を補うことができます。
トレーニングの結果、筋繊維内に余分なタンパク質が作られることで、筋繊維が太く強くなり、力強く素早い収縮が可能になります。
加齢とともにエネルギー源であるミトコンドリアの濃度が低下しますが、運動を継続することでこれらの生理学的な衰えを抑制し、身体能力を高く維持することが期待できます。
ランニングなどの運動による衝撃は、筋肉だけでなく骨や関節、靭帯も強化するため、老化に伴う骨密度の低下などを防ぐ上でも重要です。
適切なトレーニングを積んだシニアランナーは、運動不足の若者よりも高い生理的能力を維持できることがわかっており、「年齢に応じた運動プログラム」を継続することが、筋肉量と身体機能を守る重要なポイントとなります。

トレーニングは靭帯を単に硬くするのではなく、「強く、かつ柔軟に」する効果があります。
柔軟性が高まることで可動域が広がり、結果として怪我の危険性を低く抑えることができます。
つまり、「自分の年齢と体力に合わせた負荷」で「定期的に」走り、衝撃に体を慣らしていくことが、靭帯を強くするための最大のポイントです。

ランニングの効果を最大限に引き出し、怪我なくこれからも定期的にランニングを楽しむためのポイントをまとめます。
加齢による速筋繊維の減少を防ぐため、週に1回程度、短い距離のダッシュや坂道走などの「スピードトレーニング」を取り入れましょう。筋繊維の太さを維持・増大させます。
ゆっくりとしたペースでの長距離走(LSD)を取り入れることで、毛細血管網とミトコンドリアを効率よく増やします。

鼻呼吸を中心に、リラックスして呼吸を行います。
換気量が毎分40リットルを超えると空気抵抗を減らす必要があるため、自然な口呼吸をメインにします。無理に鼻呼吸に固執する必要はありません。

たまに追い込むよりも、週に数回、短時間でも定期的に走る方が関節や靭帯の柔軟性と強度を高めます。
週16〜24kmを目安に、自分のライフスタイルや体調に合わせた「心地よい運動量」を見極めて継続しましょう。
ランニングは、私たちが何歳から始めても身体が応えてくれる、極めて公平が運動です。
大切なのは、誰かとタイムを競うことではなく、
昨日の自分よりも漸進して、少しでも遠くへ身体を移動させることです。
その一歩一歩が、一つ一つの目的を持って意識した行動が、細胞を呼び覚まし生活をより豊かで健康的なものへと変えていきます。
お気に入りのウエアとシューズを履いて、今日から新しい一歩を踏み出してみませんか?
そんなあなたを私たち(LWS)は、いつでも応援しサポートしています。

・『ランニング・サイエンス「走る」を科学する』著者:ジョン・ブルーワー他 河出書房新社
・Duck-chul Lee, Russell R. Pate, Carl J. Lavie, Xuemei Sui, Timothy S. Church, and Steven N. Blair, “Leisure-Time Running Reduces All-Cause and Cardiovascular Mortality Risk,” Journal of The American College of Cardiology 64 no. 5 (August 2014): 472-481. doi: 10.1016/j.jacc.2014.04.058.
・D. C. Lee, R. R. Pate, and C. J. Lavie, “Running and All-Cause Mortality Risk—Is More Better?,” Medicine & Science in Sports & Exercise 44 no. 5 (2012): S699. Quoted in James H. O’Keefe and Carl J. Lavie,’ “Run For Your Life… at a Comfortable Speed and Not Too Far,” Heart 95 (2013): 516-519. doi: 10.1136/
・Hannah Arem, Steven C. Moore, Alpa Patel, Patricia Hartge, Amy Berrington de Gonzalez, Kala Visvanathan, Peter T. Campbell, Michael Freedman, Elisabete Weiderpass, Hans O. Adami, Martha S. Linet, I-Min Lee and Charles E. Matthews, “Leisure Time Physical Activity and Mortality: A Detailed Pooled Analysis of the Dose-Response Relationship,” JAMA Internal Medicine 175 no. 6 (June 2015): 959-967. doi: 10.1001/jamainternmed.2015.0533.
・Ralph F. Fregosi and Robert W. Lansing, “Neural Drive to Nasal Dilator Muscles: Influence of Exercise Intensity and Oralnasal Flow Partitioning,” Journal of Applied Physiology 79 no. 4 (November 1995): 1330-1337.
・Kellie M. Baker and David G. Behm, “The Ineffectiveness of Nasal Dilator Strips Under Aerobic Exercise and Recovery Conditions,” Journal of Strength and Conditioning Research 13 no. 3 (August 1999): 206-209.
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