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未分類 2024.07.12

#021 暑熱順化と暑熱対策②

熱中症とは、暑さによって生じる障害の総称で熱失神、熱痙攣、熱疲労、熱射病などの病型があることを前回ご紹介しました。

運動をすると大量の熱が発生し、一方で皮膚血管の拡張と発汗により体表面から熱を放散して体温のバランスが保てず、暑さにより熱放散の効率が悪くなり生理機能の調節や体温調節が破綻することで熱中症は起こります。

運動による熱中症事故は無知と無理によって健康な人に生じます。

適切な予防措置を講ずれば防げるものです。

事故の中には、最悪なケースである死亡事故も含まれています。死亡事故に至らなくても熱中症になるとしばらくの間、運動やスポーツ活動を控えなければいけないため、トレーニングの面からも、精神的な面からもマイナスな影響を受けます。

■運動で熱中症が起きる要因

大きく分けて3つ考えられます。

1.人的要因

個人や指導者の知識、経験から判断や評価を誤り、事故を起こす可能性があります。

また、指導者による部活動などの罰で暑い中長時間のランニングを続けさせた結果事故を起こすケースが後を絶ちません。トレーナー(指導者)は人の命を預かっているという危機感を持ち指導しなければいけません。

例えば、暑い中、自宅から20〜30分程の徒歩や自転車による通勤では、体内が脱水状態にある可能性が高いです。日々の体調チェックを軽視してしまうと、水分補給状態や体温が上昇した状態のまま、暑熱下の現場対応に入ると熱中症発症のリスクが高まると予想できます。

2.環境要因

近年、地球温暖化や都市化によるヒートアイランド現象などから暑い日が多くなり、日常生活での熱中症死亡事故が増えています。特に人口の高齢化の進行により、低体力の方や運動不足の方、生活習慣の乱れなどによる肥満の方へのリスクが更に高まっています。

急な天候の変化もあり、1日を通して外出時や勤務前、勤務中、勤務後も天候に気をつけなければいけません。

熱中症予防のため暑さ指数(WBGT:湿球黒球温度)を見ることで運動実行、休憩などの判断基準にすると良いと考えられています。

環境省の熱中症予防情報サイトからも随時確認できますので日頃からチェックしてみてください。

https://www.env.go.jp

3.運動強度

体温は運動強度に比例して上昇します。

運動強度が高すぎることで体温調節機能がうまくいかずに循環器系や中枢神経系の機能不全が起こり、命の危険が高まる可能性があります。

寝不足やエネルギー不足など体調がおもわしくない場合や体力レベルが低い場合は、特に体温調整機能が十分に機能しにくく、環境気温や運動強度に耐えられず熱中症事故が起こりやすくなります。

体力レベルを常に健康的な状態に保ち、過体重にならないように気をつけることや勤務においても暑熱順化対策を実施することはとても大切です。

肥満体型である方は運動による熱中症死亡事故が最も高いため、今からの季節は特に注意が必要です。

■環境温度と運動パフォーマンス

運動を行う際の環境温度(気温)の違いが、運動の継続時間に影響を与えます。

環境温度が高い方場合と、環境温度が低い場合を比較すると運動の継続時間が大幅に短くなることがあります。これまでの経験的にも理解できるのと思われるのですが、なぜ同じ運動を行っても環境温度によって運動パフォー マンス発揮に大きな差が生じるのか?を考えます。

■運動パフォーマンスと体温

例えば、寒い現場では、筋肉の温度(体温)を高めたり、酸素の利用効率を高める目的にラジオ体操やストレッチなどの準備(ウォーミングアップ)で、運動パフォーマンス発揮をより効率的に行うことができるようにします。

しかし、同じ温度条件での身体内部の温度(直腸温)と筋肉の温度を見ると、直腸温、筋温共に環境温度が低い場合と比較して環境温度が高い方が運動継続時間が短くなっていることが研究結果により報告されています。

運動時の適度な体温上昇は運動能力を高めますが、その上昇が過度になると運動能力の低下を招きます。

特に深部体温(直腸温や食道温など身体の核心の温度)の過度な上昇は、暑熱環境下(外気温が28度以上の環境下)における持久性運動パフォーマンスの低下に深くかかわっていると考えられています。

■ヒトの体温調節機能

 ヒトは体温を一定に保つしくみを備えています。暑いときに薄着になったり、汗をかいたりすることで意識的にも、無意識的にも体温調節を行っています。運動時には筋肉を動かす際に熱が作られます(熱産生)。

熱産生が大きくなると、熱放散反応(皮膚の血管拡張や発汗など、熱を身体の外に逃がす反応) も大きくなり体温を一定に保つように働きますが、暑熱環境下での長時間の運動では、気温や湿度などの影響も加わり、過度な深部体温の上昇が起こりやすくなることがわかっています。

暑熱環境下における代表的な熱放散機能に“発汗”がありますが、発汗量に見合った量の水分補給を行うことができなければ、体液(体水分)が失われ、いわゆる脱水状態になり運動パフォーマンス発揮に影響を及ぼします。

さらに、多湿環境下では汗をかいても蒸発しにくい“無効発汗”の量が増えることで更なる体水分の損失が進みます。

脱水が進行すると、ますます体温が上昇しパフォーマ ンスの低下を引き起こしてしまいます。

熱放散(発汗)がうまくいかずに急激な体温上昇は、深部体温を高め、さらに脳機能を低下させ、判断能力や意識を保てなくなったり、呼吸がコントロールできなくなったり、正常な体温調整機能ができなくなる状況に陥ります。

そして熱中症の症状が深刻化していきます。

◆参考/引用

・日本スポーツ協会「スポーツ活動中の熱中症予防ガイドブック」

・環境省「熱中症予防情報サイト」

・国立スポーツ科学センター「競技者のための暑熱対策ガイドブック」

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