ランナーにおける「体幹を鍛える機能的なトレーニング」とは、単に筋肥大を目指す腹筋運動ではなく、走っている最中の関節のズレを防ぎ、生み出したエネルギーを無駄なく推進力に変換するためのアプローチが目的です。
機能的トレーニングの考え方(準備編)とトレーニング実践(実践編)のポイントを2回のコラムにわたり紹介します。
一般的なシットアップ(上体起こし)などの腹筋運動だけでは、ランニングのパフォーマンス向上や怪我予防には不十分です。
したがって、ただ筋肉を強くするのではなく、「神経系と筋肉の協調性を再構築して走る動作の中で体幹が瞬時に機能するプログラム」を脳と身体に覚え込ませる必要があります。

機能的トレーニングにおいて以下の原則を取り入れることが推奨されています。
走る動作に近い姿勢(例えば、頭から足までを一直線に保つアライメント)を維持した状態で、体幹や骨盤まわりに負荷をかける運動が適しています。
これにより、走る際のリズミカルな体幹の回旋運動(ワインディング・アンワインディング理論)を安定的かつ効率的に行えるようになります。
準備運動の段階から、単に関節を伸ばすだけのストレッチではなく、ランジエクササイズなどの多関節運動を用いた「動的(アクティブ)ストレッチ」を取り入れます。
これにより、ランニングに必要な可動域を確保しながら、同時にスタビライザーや神経系を活性化させ、走る直前から体幹のアライメントを整えることができます。
一人一人の身体の状態や特徴を考慮していない一律的なメニューを行うのではなく、「固有感覚(身体の位置や動きを感知するセンサー)トレーニング」と「筋力トレーニング」を組み合わせることが極めて効果的です。
最新のデータでは、これらを適切に導入することで以下のように怪我のリスクが劇的に減少することが示されています。

「万人向け」の完璧なトレーニングは存在しないため、まずは自身の身体のどこにアライメントの崩れや筋力低下があるかを特定することが重要です。
「ディープスクワット」などの動作評価テストを行うことで、特定の機能欠陥(足首の硬さや体幹・骨盤の不安定さなど)を効果的に特定できるとされています。
そして専門コーチによるアライメントチェックや動作のスクリーニングから、更に自分の弱点を理解した上で、個別の補強プログラムを組み立てることをお勧めいたします。

走る直前に静的(スタティック)ストレッチを行うと、筋肉や腱が伸ばされすぎて神経系の感度が鈍り、走りに必要な「ばねの剛性(スティフネス)」や筋出力が一時的に低下してしまいます。
そのため、ウォームアップには多関節運動を取り入れた動的(アクティブ)ストレッチが推奨されます。

ランナーの怪我を防ぐためには「万人向けのトレーニング」を行うのではなく、自分自身の身体の欠陥(足首の硬さや体幹の不安定さなど)を特定することが不可欠です。
一般的な動作スクリーニングの中でも、特に以下の2つの動作テストが特定の機能欠陥を捉える上で有効とされています。
両手を高く上に伸ばした(または頭上に棒などを掲げた)状態で、深くスクワットを行うテストです。

仰向けに寝た状態で、片方の膝をしっかり伸ばしたまま脚を天井に向けて高く持ち上げるスクリーニングです。

スクリーニングによって判明した弱点に応じて、個別補強運動を組み立てます。
自身の身体のクセや弱点を事前に把握し、ピンポイントで補強しておくことが、怪我のないランニングライフへの鍵となります。
ディープスクワットなどの定期的なスクリーニングチェックを利用して、「足首の硬さ」や「お尻の弱さ」が見つかった場合、それらを改善するためのエクササイズ手順を紹介していきます。

次にディープスクワットなどの動作テストで「足首の硬さ(背屈制限)」や「お尻の弱さ(中臀筋・大臀筋の機能低下)」が見つかった場合、これらはランニング時の腰折れ姿勢や膝の横ブレ(マルトラッキング)を引き起こす直接的な原因となります。
ご自宅で道具を使わずに(またはタオル等で)改善できる、具体的なエクササイズ手順とポイントをチェックしていきましょう。
足首が硬いと、スクワットで深くしゃがめなかったり、走る際に「足首からの正しい前傾姿勢」が作れず腰が折れてしまいます。
※下記コラムの“ 理想の「前傾姿勢」は、腰から折れ曲がらないアライメント”で紹介しています。
ふくらはぎ(腓腹筋・ヒラメ筋)の緊張を和らげ、足関節の背屈(つま先をすねに近づける動き)の可動域を広げるエクササイズです。
視覚を遮断することで、足裏の感覚受容器や足首周りの細かい安定筋を活性化させるエクササイズです。

お尻の筋肉(特に骨盤を支える中臀筋や着地衝撃を受け止める大臀筋)が弱いと、着地時に骨盤が傾き、膝が内側に入る「ニーイン」が生じて膝痛の原因になります。
※下記コラムの“マルトラッキングの連鎖”で紹介しています。
大臀筋を集中的に強化し、股関節の安定性と着地時の推進力を高めるエクササイズです。
片脚で体重を支えながら股関節を折り曲げる(ヒンジ運動)ことで、中臀筋・大臀筋と体幹の協調性を養い、膝のブレを防ぎます。

膝に負担をかけずに、衝撃吸収クッションとなる太もも前(大腿四頭筋)をピンポイントで鍛えるエクササイズです。
これらの個別補強トレーニングは、走る前のウォームアップではなく、走った後のケアや補強日(週2〜3回)にじっくり行うのが効果的です。
負荷の重さよりも「お尻や足首に正しく刺激が入っているフォーム」を重視して進めてみてください。

これらのエクササイズを日常のルーティンにスムーズに組み込むための週間トレーニングスケジュールの組み方について、トレーニングプログラム実践編を次回のコラムで紹介していきます。
・『ランニング・サイエンス「走る」を科学する』著者:ジョン・ブルーワー他 河出書房新社
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