今回は、暑熱対策についてご紹介します。
事前準備として熱中症への知識や暑熱順化の大切さを理解された上で、環境省や気象庁等が発表している予防案内指数を確認しながら対策を取っていきます。
⑴体調/天候/環境のチェック、⑵暑熱順化、⑶身体冷却、⑷水分補給、⑸栄養ポイント、⑹睡眠テクニックを紹介していきます。
体調不良は事故のもとです。
体調が悪いと体温調整能力も低下し熱中症になりやすいです。
疲労感が強い、睡眠不足、発熱、風邪、下痢など体調不良の際は無理な運動をしないようにしましょう。
また、体力の低い人、肥満症の人、暑さに慣れていない人は特に要注意となり、特に熱中症の死亡事故の7割は肥満の人と報告されています。
気温が高い時ほど、湿度が高い時ほど、運動強度(負荷、時間)が高いほど熱中症の危険性は高くなります。
暑い中に、事前の暑熱順化トレーニングや身体冷却など暑さ対策不足の場合、無理な運動をしても効果は上がりません。
環境条件に応じて運動強度や内容を調整して、定期的に休憩をとり、適切な水分補給をします。
「熱中症予防運動指針」を参考に暑さ指数(W B G T)、湿度、気温を確認されて計画的に実施しましょう。
熱中症予防のため暑さ指数(WBGT:湿球黒球温度)を見ることで運動実行、休憩などの判断基準にすると良いと考えられています。
環境省の熱中症予防情報サイトからも随時確認できますので日頃からチェックしてみてください。
前回ご紹介した内容を簡単におさらいすると以下の通りです
方法
暑熱順化を行うためには、熱放散反応(発汗)を刺激する必要があります。具体的には60〜100分前後の軽く息が弾むくらいの中強度運動(50〜60%VO2max)を行い、深部体温を1℃以上上昇させることが必要です。順化期間には7〜14日程度必要です。
効果
・体温調節が効率的に働くようになる(熱中症になりにくい)
・血漿量の増加、発汗量の増加(熱放散しやすい)
・持久性運動パフォーマンスの向上(同一運動強度での心拍数の低下など)
・正確な判断能力を保った状態での長い時間の現場作業ができる可能性が高る
・効果は、短期間(1週間以内)で失われるものではなく、3日以上連続で暑熱環境下での運動を中断しなければ消失しする可能性は極めて低い
・暑熱環境のみならず、通常環境でもその効果が発揮されるため日常生活においても熱疲労のストレスを抑え、カラダの回復を早める効果が期待できる
暑い環境下で体温の過度な上昇を抑えることで熱中症の予防、持久性運動能力や判断能力の低下を抑制、脱水症状の予防などに効果が得られます。
暑い環境下で運動やスポーツを行う際は、身体冷却を実施することが重要となります。
身体冷却にはa.冷却方法、b.タイミング、c.冷却時間の3つのポイントで効果的に行えます。
a.冷却方法
身体の外部から冷却する身体外部冷却→アイスバス、アイスパック、手掌冷却、送風など
伝導や発汗による熱放散により身体を冷却する
身体の内部から冷却する身体内部冷却→冷たい飲料(アイススラリーなど)の摂取など
皮膚や筋肉の温度を大きく低下させることなく身体の内部(核心部)を冷却する
スポーツ飲料で作られたアイススラリーを摂ることで、身体冷却に加え、水分、電解質、糖質も補給できるので運動時に効果的な方法です
適切な水分の補給量の目安は、体重減少が体重の2%以内に収まる程度
自由に水分補給できる環境を作り、喉の渇きに応じて補給します。
運動強度が高い、気温が高い、体が大きい場合など多めに量を補給する調整が必要となります。
5〜15度に冷やした水分
0.1〜0.2%の食塩と糖質を含んだものが効果的です(一般的なスポーツドリンク等)
糖質濃度が高いと胃に溜まりやすいためエネルギーの補給を考慮して4〜8%程度の糖質濃度が目安となる
b.タイミング
下記のように目的別に大きく分けられます。
運動前
→運動前に予め体温を低下させることで、運動中の体温の許容量を増やし運動時間を伸ばす
→冷たい飲料(アイススラリーなど)を飲むことがおすすめです
運動中、休憩時(ハーフタイムなど)
→体温や筋温の過度な上昇を防ぎ、疲労感や暑さなどの主観的な感覚を和らげる
→アイスバス、アイスパック、手掌冷却、送風など伝導や発汗による熱放散により身体を冷却する
→スポーツドリンク等による適切な水分補給も大切です
運動後
→上昇した体温や筋温による疲労の軽減、筋損傷や炎症飯おうを抑えることで素早く身体冷却を行うことでリカバリー効率の向上に繋がる
c.冷却時間
体温や筋温を適切な状態に保つ為に選択した冷却方法とタイミングにより冷却時間を調整することが重要です。
例えば、サッカーでは、脱水率を2%程度に抑えるため、体重から予め水分摂取量を計算し小まめに摂取します。
1.ウォーミングアップ〜試合前にアイススラリーの摂取
2.ハーフタイムにアイススラリーと手掌前腕冷却13度を10分以内実施
3.試合後は、体重測定から減少した分の水分を補給する、涼しい環境下でストレッチなどクールダウンを実施する
こまめな水分補給が大切です。汗からは水分と同時に塩分も失われます。
5〜10℃(自動販売機や冷蔵庫から出したくらい)の冷たいお茶やスポーツドリンクなどを利用して0.1〜0.2%程度の塩分も補給しましょう。
水分補給には、お茶(塩分を足してもO K)、スポーツドリンク(ミネラルが摂れる)、経口補水液(暑熱順化不足の時に効果的)、果物ジュース(糖質も摂れる、濃度が高く飲みやすい)がおすすめです。
運動前後には、牛乳(発汗に伴う電解質不足を補うため)もおすすめです。
また、近年では、暑熱下での運動(現場作業)前に深部体温を下げ、暑熱対策として持久性運動能力を下げにくくする目的でアイススラリー(シャーベット状の氷飲料)が注目されています。
市販のものも良いですが、冷凍庫で製氷皿を利用して濃いめに作ったスポーツドリンク(粉末タイプ)を凍らせた氷とスポーツドリンクを3:1くらいの割合で準備し、ミキサーやシェーカー(糖度が高い氷は砕けやすい)でスムージー状にすることでも代用できます。
アイススラリーは低温(約-1℃)の飲料であることに加えて、深部体温の十分な低下を得るためには多くの量を飲む必要があるため(体重1kgあたり7〜14g)、それに伴って胃腸の不快感を抱く可能性があります。
暑熱対策として、アイススラリーを摂取する際は、自身に適切な摂取量とタイミングを検討して把握することが必要です。
水分補給量の目安は、運動による体重減少が2%を超えないように補給します。
15〜20分おきに1回あたり100〜200ml(紙コップ1杯程度)の水分補給を意識します。口に含める量から「ごく・ごく・ごく」と2〜3口以上が必要となることを覚えておくと便利です。
暑熱下における運動中(現場作業など)は、体格差により摂取量目安に差はありますが、1時間あたり400〜800mlの水分補給が必要です。
勤務(運動)前後に体重測定するまたは、脱水により変化した尿の色から失われた水分量を確認し、回復効果の向上、体調管理に役立てることができます。
・環境省「熱中症予防情報サイト」
・日本スポーツ協会「スポーツ活動中の熱中症予防ガイドブック」
・国立スポーツ科学センター「競技者のための暑熱対策ガイドブック」
・ナツメ社 著者:清野準・塚本咲翔 「パフォーマンスを高めるためのアスリートの栄養学」